言語聴覚士の仕事
【Vol.1言語】言語訓練について
言語訓練には、さまざまな方法があります。
失語症(脳卒中などにより、「話す」「聞いて理解する」「読む」「書く」能力が障害された状態)や構音障害(顔面、舌、唇の麻痺などにより、正確に発音する機能や能力が障害された状態)の訓練のために、絵カードや文字カードを使用することがあります。
絵カードを用いた訓練の様子
「聞いて理解する」訓練の一例です。
「○○はどれですか?」という言語聴覚士の問いかけに対して、正しい絵カードを選択します。
「こんなことは、できて当たり前!」と思われるかもしれませんが、多くの失語症の方々の訓練は、ここから始まります。正確性と確実性を高めながら、少しずつ難しい課題へと移行していきます。
次は、「書く」訓練の一例です。意外(?)かもしれませんが、失語症の患者さんの多くは、シンプルで簡単そうにみえる「仮名文字」よりも、実は「漢字」のほうが理解しやすいのです。
脳の中で処理される方法や場所が漢字と仮名では違うことが、この要因と考えられています。
ヒトの言語機能について学ぶことは、脳のはたらきの勉強でもあります。
【Vol.2聴覚】聴覚の検査と訓練について
主に耳鼻科に所属し、聴こえに関するさまざまな検査、補聴器の調整などを行います。
聴こえにくさや補聴器の話題となると、「それは高齢の方々だけの・・・」というイメージをお持ちでしょうか?
実は、こどもの言葉の発達の遅れや発音の問題の原因として、難聴が関係していることがあります。そのため、
乳幼児の聴覚の検査、ことばの検査、ことばの訓練も言語聴覚士が行います。
また、近年、重度の聴覚障害に対して、人工内耳を体内に埋め込む高度な医療技術が注目されていますが、医師による手術後は、言語聴覚士による専門的な言語訓練や機器の調整が不可欠となります。
したがって、聴覚障害に関わる言語聴覚士は、
新生児から超高齢者まで、幅広い年齢層の方々を対象としています。
聴覚の検査
これは聴こえの検査をしている様子です。音の大小、高低について、どの程度聴こえているかを調べる
ことができます。本学では、最新の機器を使用して、聴覚に関するさまざまな検査の演習を行います。
検査機器と補聴器
聴力検査を行う機械です。
ヘッドホン(左端)を耳に着けて、そこから音が聞こえたら、ボタン(右手前)を押すという仕組みです。
機械には、音の高低や大小に関するダイヤル、ボタンがついており、
その操作を言語聴覚士が行います。
これは耳かけ型の補聴器です。
補聴器は、音やことばが聴き取りにくい場合に耳に装着します。
補聴器によって、音やことばが増幅されて、大きくなり、聴き取りやすくなります。
耳の穴に入れて使う耳穴型の補聴器や目立たない小型の補聴器、子供用のカラフルな補聴器等さまざまな補聴器があります。
【Vol.3嚥下】嚥下(えんげ)機能の評価について
急いで食べたときに食べ物が気管に入ってむせ込み、涙が出るほどつらかった、という経験は誰にでもあると思います。嚥下(えんげ)障害とは、病気や加齢により食べ物を安全に飲み込む機能が低下し、このむせ込みのつらさと、ときには、窒息や肺炎の原因となる危険が続く状態のことです。
病気からの一日も早い回復や日々の生活の質を高めるためには、安全に、食事を楽しみながら、クチから十分な
栄養をとることが重要です。それらの実現のために、言語聴覚士は嚥下障害の患者さんの評価や訓練を行います。
「安全に食べる」ということに関しても、近年、言語聴覚士の役割の重要性が、ますますクローズアップされています。
嚥下(えんげ)機能の評価
「あれっ、聴診器をあてる場所をまちがっているのでは?」と思うかもしれませんね。
これは言語聴覚士が聴診器を用いて、患者さんが食べ物を飲み込む際のゴックンの音、そしてその前後の空気の流れ(いわゆる呼吸音)をチェックしている様子を示しています。聴診器を頚部(けいぶ)にあてて音を聴くことで、さまざまなことがわかります。
言語聴覚士は、視覚、聴覚、触覚をフル活用して、「食べる」機能をチェックします。
手や足などの体内の骨の異常は、外部から見ることはできません。骨折の疑いの際は、レントゲン(エックス線)撮影の静止画で体内の骨の様子を確認します。食べ物がクチから胃へ運ばれる様子も、外部からは見えません。そのため、嚥下機能の評価ではエックス線を用いた「嚥下造影検査」を行います。
クチから入った食べ物が、食道へ運ばれていく一連の流れを透視動画で記録し、嚥下機能の異常の有無などをチェックします。
【Vol.4小児】言語発達の評価と訓練について
話すことばの数が少ない。
発音が悪い。
話し始めのことばがなめらかに出にくい。
会話が成立しにくい。
お友達と一緒に遊ぶことが難しい。
・・・こどものことばの問題には、言語障害だけではなく、さまざまな要因が複雑に影響し合っています。
言語以外の能力や日常生活の様子、発達面の情報も重要な意味をもちますので、言語聴覚士としての専門性に
加え、理学療法士や作業療法士、医師、保健師、教師等の専門家と緊密に連携をとりながら、こどもの評価や
訓練を行い、今後の支援の方針を決定していきます。
こどもの言語発達の評価と訓練
「できない」ことばかりに着目するのではなく、訓練に遊びや楽しみの要素を効率的かつ計画的に織り込むことで、他者とコミュニケーションをすることの楽しさや、ことばによってもたらされる世界の拡がりなどをこどもたち自身に体感してもらうことが重要な訓練目標になります。
こどもたちの成長とキラキラした目の輝きが、言語聴覚士のパワーの源です。